Precious moments

人生にやってくる予想外の出会いや出来事。婚外恋愛の軌跡。

最期のとき

くまさんがおもむろに言った。

「あのねー、この間思いついたんだけど、運転免許証の裏にazuの連絡先を書いておこうと思うんだ。うちの人たちは俺の免許なんて見ないから。」


「どうしてー?」


「そうすれば、俺に何かあったとき、例えばバイクで事故に遭ったとかね、そういうときに警察からあなたに連絡が行くでしょう?」


「そっか!じゃ、そうしておいて!でも…ご家族にも必ず連絡が行くわけで…はちあっちゃったら、そしたらどうしたらいいの?」


「それは、僕はもう知らない!!大丈夫だよ、あとはなんとかして 笑!」


「そんなぁ…」


「うそうそ、でも最期のときはazuにそばにいて欲しいから。」


「そうだねー、わたしもあなたにそばにいて欲しいなぁ、もう最期だってときは。。

わたしが最期ののときは駆けつけてくれる?」


「もちろん駆けつけるよ!」


「そして、手の一つでも握ってくれる?」


「うん、手も握るし、キスをするよ。ずっとキスをしながらとろんとした中で逝かせてあげるよ。」


わたしは思わず大笑いした。そんなこと言う人はじめてだし。


「でも、そういうときはいろんな管が付いてたり、酸素マスクだってしてるだろうし…」


「関係ないね、酸素マスクなんて外してずっとキスをする。その方が良くない?どうせもう死ぬならさぁ。それか、azuのベッドに潜り込んで、ずーっと抱きしめたまま逝かせてあげる。そしたら怖くないでしょう?安心できるでしょう?」


笑ってはいたけど、やっぱりくまさんは超えてくるなーと思った。めちゃくちゃ非現実的ではあるけれど、でも、なんか嬉しかったから、


「分かったー、じゃぁわたしも、あなたの最期にはそうすることにするね。」


「うん、ありがとう!

じゃ、免許証に付箋も付けてこの人に連絡してください!って書いておくよー。」


それ、結構危険な気がするんですけど…

くまさんは大丈夫って言うから、、


でも、そんなふうに死んでゆけたら幸せだなーって。思った。


ちょっと残しておきたいくまさん語録。

奇跡は起こった④

でも。

今日はこれで終わりじゃない。

それが最後の奇跡。


本当はこのあと車でうちまで送り届けてくれる予定だった。

でも、今日はまだまだ一緒にいられる 涙


「次の日もゆっくりできるなら、そのまま◯◯◯ホテルに泊まってもいいなと思ったんだけどね。」

そんなことも調べてくれてたんだ。

でも、次の日くまさんはお仕事だったから、くまさんの職場の近くのお部屋へ。


わたしたちにとって、寄り添って朝まで眠れるのはめったにないとても貴重な時間。

シャワーを浴びて、髪の毛乾かして、

お化粧水塗ったりしてると結構時間がかかって。しびれを切らしたくまさんが両手を広げて「早くおいでよー」ってゴロゴロしながら待ってた。その腕の中に飛び込んでいくときの幸せ。

優しく抱きしめてくれて、それから。。

くまさんのくれるキスは特別。今まで大人のキスは嫌いだったのに、くまさんのくれるキスならずーっとしていられるくらい心地よくて、髪を撫でてくれる手も大好き。


まさか自分の人生で40歳も過ぎて、こんな時間がやってくるなんていつ予想できたでしょう。


暑がりなくまさんはいったん眠るとお布団を全部はいじゃって、そのあと寒くなるたびに、わたしを抱き枕みたいにギューっと抱き寄せて羽交い締めにするというパターンを朝まで数回繰り返していた 笑

無意識でも、わたしをしっかり抱きしめてくれて、その度にこの上ない安心感に包まれた。

でもね、あんまりギューってするから、くまさんの胸の中で鼻も目もつぶされちゃって、呼吸すら苦しくなって、どうしてもその腕からちょっとだけ抜けだしてたのは秘密 笑。


「azuは今まで、たくさん辛い思いもしてがんばってきたでしょう?だから、これからは流すのは嬉し涙だけで、幸せをたくさんあげたいと思っちゃうんだ。」

この日くまさんが言ってくれた言葉の一つ。


朝、目覚ましが鳴ってもまだ起きたくなくて、あと5分、あと1分ってギリギリまでくまさんの腕の中にいて 笑


きっと一生忘れない最高のお誕生日。

こうしてあなたがわたしにくれるもののどれだけをわたしがお返しして差し上げられるか分からないけど。なるべく平穏に長く隣に居られるように、ただそれだけを願って。


今年のお誕生日の記録。

奇跡は起こった③

そして、お誕生日当日。


「お誕生日おめでとう!!」のラインから始まり、お互いいつも通り仕事へ。


お昼休みに携帯を見ると、

「今日は今までで一番売上が良かったから午後は仕事しなくてよくなっちゃった!azuが来たら出かけよう!」って。


もう、奇跡みたいな偶然が重なりすぎて信じられなかった。


夕方、定時に仕事を切り上げて、急いで帰宅しシャワー浴びて身支度して、電車に飛び乗った!髪の毛を巻くのに手間取ったけど(普段やらないから💦)なんとかレストランの予約時間の1時間半前に到着した。


目の前に現れたくまさんは…

まるで別人でした 😳

別人すぎて、思わず笑っちゃって、何も言えなかったよ。

黒の冬物のスーツに黒のチェスターコート。革靴、見たことない時計にバッグ。髪の毛もセットしてあった。わたしも長身だけど、くまさんもわたしより背が高いからお洋服は映える。

「うそー!別人ー!!」ってわたしも失礼だよね 笑

「だから言ってるでしょー、ちゃんと全部持ってるし、結構似合うんだよ。いつも仕事の合間に会うからいい加減な格好してるけど、ほらね、なかなかいいでしょう?」って。


そしてホテルまで手を繋いでゆっくり歩いた。すると、とあるデパートの入り口に、それは素敵なクリスマスツリー✨ 二人で見とれて写真を撮った。少し時間があったので、ホテルの周りをブラブラ散歩したけど、素敵な街並みで、これから一緒に最上階でフレンチが食べられるなんて、本当に夢のようだった。


予約時間にドキドキしながらエレベーターに乗る。到着した階から見える東京の夜景は本当に宝石箱みたいだった。

しかもレストランの方に丁寧に案内されたのは、窓際のテーブル!くまさんが、窓際をリクエストしてくれてたのは知ってたけど、確約はできないとのことだったから、窓際に案内された時は本当に嬉しかった。


メニューを見ながら、相談して7皿のコースにした。前菜2品と、もう一皿、お魚、お肉のメイン、プレデザート、デザートとコーヒー。そして、お誕生日だからねって、わたしにシャンパンを頼んでくれた。くまさんはお酒を飲まないからノンアルコールのロゼスパークリング。

そして、2人で乾杯。


ここまでで、わたし、もう明日世界が終わってもいいと本気で思いました 笑。そのくらい、感激してたし嬉しかった。


「もう明日死んでもいい。」

思わずつぶやいたわたしに、

「死なないでよー?」と笑うくまさん。


それから運ばれてきたお料理の、それはそれは美味しかったこと!一皿一皿、大切にいただきました。お肉のお皿が終わったところで、もうお腹がいっぱいで幸せすぎて、お店の方とデザートが入るかしら、と話した。入ってしまうんですよね〜と素敵に微笑まれ、大好きなモンブランのプレートを待った。


その数分後、小さな声で

「azuさん…」と肩越しにわたしを呼ぶ声。

知り合いがいたのかと、どっきりして振り向くと、お姉さんの持つお皿の上、ろうそくが灯る小さなケーキに、Happy birthday Azuの文字…


フレンチのコースってだけで舞い上がるほど嬉しくて、他のことなんて想像もしてなかったから、それはそれはまた驚いて、こみ上げる涙を一生懸命がまんしながら、言われる通りにろうそくの火を吹き消した。

お姉さんが「おめでとうございます」と本当に上品に言葉をかけてくれて。

やっとのことで顔を上げてくまさんを見たら。


サッとわたしの前に小さな紙袋を置いて、

「azu、お誕生日、おめでとう。」って。

その紙袋を見た瞬間、もうがまんできなくなってポロポロ、いやボロボロ泣いた。

こんな予想外のことが立て続けにきたら、もうダメだ。

レストランを予約してくれた時点で、プレゼントはもちろんいらない、これが何より最高のプレゼントだからって話してたから。本当に予想外だった。

わたしの好きなアクセサリーのお店の紙袋。

ラッピングをゆっくり外して、小さな箱を開けると、ちょうどわたしがずっと欲しかったとても華奢なブレスレット…。

「どうして分かったの?わたし、これ欲しいって一度でも言ったっけ??」

「ううん、聞いてないけど、azuに似合いそうなのを調べたんだよ、お店の人とも相談してね。色々迷ったんだけど、azuは植物が好きでしょう?だから、この月桂樹のモチーフにしたんだ。」

よく見ると、繊細なカーブを描く月桂樹のモチーフに小さなダイヤモンドがいくつかのっていて、テーブルの照明に当たってキラキラ光っていた。


やっぱりもうわたし、明日死ぬのかも。

わたしの不運だった人生に、こんな夢みたいなことが起こるなんて。


それから、ブレスレットを付けてもらって、モンブランプレートを食べたけど、涙でよく見えないし味もよくわからないまま…


レストランを出てから手を繋いで帰るあいだも、行きのおしゃべりはどこへやら。嬉しすぎると本当に言葉が出なくなっちゃうんだって初めて知った。


そんなわたしを横でニコニコ見ながら、

「惚れ直したー?スマートだったでしょー?ジェントルだったでしょう?プレゼントを出すタイミングも完璧に計算してたんだからー」

とくまさん。

確かに、そういえば食べ方もカトラリーの使い方も全然気になることはなかったし、お店の方との会話もとても自然で楽しかった。

今まで知らなかったくまさんの一面だった。

変に心配してごめんね 笑。


そして、最後にうなずくしかできないわたしに

「愛してるよ」って。


あー、もうわたしやっぱり明日死ぬんだ。

それか、ひょっとしてもう死んじゃってるとか!?