支え
くまさんに呼び出された。
あなたはこういうとき一人でいると否定的な考えになりがちだから、とにかく一度出ておいで。
道は開こうと思う人にしか開けないんだよ。
そして、前にも言ったとおり、道は一本道じゃない。
俺は平等に考えられるから、azuの耳に心地良いようなことばかりを言うつもりじゃないよ。
でも、あなたの将来が明るいものになるように助けられるから。
そんなことを言われても、気が乗らなかった。
あなたは家庭のある人、わたしは婚外恋愛の相手。心が閉ざされていた。
でも、彼の熱意に押されて、少し時間を作った。
わたしがいつもと違ってても驚かないでねって前置きして。
とても恋愛モードになんてなれる気がしなかったから。キスもハグもそんなことはできる気がしなかった。
くまさんと会うと、わたしは努めて笑顔で初めは他愛もない話をした。
でも、すぐに座らされて、話を始めた。
まず、わたしの考えやとった行動をじっくり聞いてくれ、不安や迷いにくまさんなりの答えを話してくれる。ゆっくりと、わたしが考えられていなかった側面を指摘してくれたり、時には夫の側の気持ちを代弁してくれたり。
それでもまだわたしは心を頑なにしていて、これから大変になるかもしれない。生活が変わるかも。わたしたちはいわば家庭の安定があっての恋愛関係だったわけで、これからはそうはいかないと思っている。などなど、話した。
すると、くまさんは、そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれないじゃないかって言って、今後の生活の仕方について、いや長期的なスパンで見た今後のわたしと娘の過ごし方について、思いもしなかった提案をしてきた。まさに目からウロコ。ちょっとわたしの思考が止まった。
え?そんな切り口考えもしなかった。
でも、それはすごくいいアイデアで、しかも現実的なものだった。考えれば考えるほど前向きになれるがんばれる、そんな気持ちにさせてくれる提案だった。
心がふわっと楽になったのが分かった。
「ね、azu、ものごとは前向きに捉えないと。道は必ずいくつもあるんだから。」
って笑って、手を広げてくれた。
わたしは、今日はハグもするまいと思っていたのに、心が少し軽くなったのが嬉しくて、さすがくまさんだなと思って、ありがとう!って言いながら彼のハグを受けた。
優しく抱きしめられた瞬間、自分でもびっくりするほど涙がとめどなく流れてきて、止められなくて泣きじゃくった。
がんばってきたのにどうして、っていう悔しさ、悲しさ、押しつぶされそうな不安や辛い気持ちが一気に溢れ出てしまって。
でも、ずっと黙って抱きしめていてくれた。
一通り泣くと、なんだかどんどん心が強くなっていく。わたし、大丈夫。やれる。
そんな気持ちになってきていた。
笑顔になったわたしを見て、
azu、ワンピースを買ってあげるよ!
出かけよう!
今日は暖かくていいお天気なのに、あなたは冬みたいな格好をしているんだもの。
着替えて軽くなるよ!って。
車で連れ出してくれた。
そして車の中では、もうさっきまでの頑ななトーンとは違っていつもの二人のトーンで、さらに悩んでることや、今後の不安、わたしが出した答えで良かったのかなどもう一度いろいろ話した。
心がどんどん強くなって、自然に笑えるようになっていく。
そして、二人でモールをブラブラして、くまさんがワンピースを見立ててプレゼントしてくれた。サラリと軽い風合いの着心地の良いワンピース。重かったハイネックのセーターとロングスカートを脱ぎ、すぐにそのワンピースに着替えた。
「azu、とてもよく似合うよ。
たまには、いや、これからは自分の幸せのために、自分でがんばるんだよ」
「大丈夫。俺は一生あなたの近くにいて面倒をみる覚悟はあるから。頼ってほしい。
間違えないでね、あなたの行き着く場所はここだよ。」
娘との接し方、今伝えておかなければいけないこと。夫との関わり方の選択肢。
話を親身に聞いてくれて、真剣にアドバイスをくれる、そのときは恋人同士でなく人間としての関わり。それだけでどれほど力になるか。
もう日も暮れて、心地よい南風がふいていた。
あー、気持ちがいいね〜って
ほほえみあった。しあわせだなって思った。
やっぱり会いに来て良かった。
前向きにわたしの思考を戻してくれた。
現実はまだまだ厳しい。
でも進む。
そうするしかないから。
帰り際、ハグをして、
それでもまだ弱気なわたしは
いつかあなたの奥さんにして。
ってつぶやいた。
「分かった。」
そう答えてくれたくまさんに逆に小さく驚いた。
このブログへのコメントは muragonにログインするか、
SNSアカウントを使用してください。